芽を摘んでしまった人


DOMMUNEばっかりみていて、書くのをすっかりさぼっていた。


今週、うちの会社に訴状が送られてきた。
辞めた方が訴訟を起こした。残業代不払いで。


その人は去年の8月に辞めた。
自主退職に限りなく近い会社都合だった。
前年度より業績が悪く、リストラも進めていたが、その人は別にリストラ対象者ではなかった。
ただ、業績悪化により、給与全員カットを余儀なくされ、それに腹を立てて、辞めた人だった。
会社側としても、やむなくカットをしたわけであるが、全員に対して行って、一人だけにしたわけではない。
それが原因で腹を立てて辞めると言い張ったその人には、会社都合のカードを会社が出してあげた、といった形の会社都合退職であった。


そして、うちの専務はその人に次の職場を用意してあげている最中の出来事だった。
まだ、その人の仕事が決まっていない、という噂を聞き、どこかに入れる会社はないものか、と探して紹介してあげようという動きが今年に入ってからあったのだ。


そこへ届いた訴状。


その人は次の職場への芽を自らで摘んでしまった。


あたしの友達でリストラを経験した人がいる。
友達は全体像を把握し、リストラを告げてきた上司に感謝の言葉を述べた。
上司の立場、会社の全体像、全てを考えて見て、リストラ対象とされた事は悲しい事であったが、立場上言わなければならなかった上司の心労を察し、「この職場で学んだ事を次にいかします。ありがとうございました。」と辞めた。


友達は結局、その上司からの紹介で、同業種の他社へ紹介され、1ヶ月ほどで新しい職場で働く事となった。
上司に感謝を述べたのはあたしの友達だけだったからだ。たいへん驚いた顔をしたらしい。
まぁ、当たり前なのかもしれない。
言われるほうは自分がクビを切られて、気持ちの良い人はいないだろうし、それを告げるほうははイヤな役回りで、恨みを買うことしかないからだ。
友達は「それは誰のせいでもない、人に恨みを向けるより、次への事を考えれば、今までお世話になったのだから感謝したかった。」と言っていた。



確かに残業代不払いは法律違反であろう。(ちなみにその人は管理職であった)
全員がちゃんと適正なモノをもらうのは権利であるし、そうなれば、良い事であると思う。


しかし、その人の行った行為は、結局次への職場へと至る道への芽を摘んでしまった。


友達の話が去年の夏頃の話で、辞めた時期も似通っていたので、この話がとても対照的に思えた。


仕事は適正に法にのっとり行わなければならないのは正論。
けれど、仕事を行っているのは「人間」であり、仕事がないと噂を聞きつけ、探していてあげていた専務はとても残念そうな顔をしていた。
芽吹くかもしれなかった芽を摘んでしまったその人に、できるなら、あたしの友達の話をしてあげたかったな、と思った。