傲慢


再会


我儘で羽振りがいい。
一体どこのお嬢様なんだろう。
それともこれだけの顔の広さ、ヤクザの娘かもしれないな、
と、あたしは思っていた。
でもそんな事はどうでもいい事。
遊び友達にバックグラウンドなどは関係のない事だ。
気が合うか合わないか、楽しいか楽しくないか、ただそれだけだ。


毎日、毎日、毎日。
出会ってからというもの、ほぼ毎日、遊んだ。
約束した事は一度もなかった。
なのに何軒もある沢山のいきつけの店たちの中から
あたしたちは的確にお互いを見つけることができた。
探す必要はない。その日、頭に浮かんだ店に行けば必ず的中する。
あの頃はそれに何の疑問も抱いていなかった。


繋がっていた。
ふたりは見えないもので確実に繋がっていた。


突然遊び始め、毎日出歩くようになり
当然、親は怒ってばかりになっていった。
怒られると面白くない、反発したくなる。
若さというのは傲慢なものだ。
自分の事しか考えていない。
すべての基準が楽しいか楽しくないか。


次第にあたしは家には着替えに帰るだけ、
親が寝静まってから寝に帰る。
そういう生活に変わっていった。
親との摩擦は増え続けていく。


あたしはどんどんと楽な方へ、彼女の家に出入りする事が
多くなっていった。


彼女の家は、いつもその時に付き合っている男の家、だった。
だから男が変わったら彼女の居場所も変わった。
ある時は桜川のワンルームマンション。
ある時は淀川近くの2DK。
また、ある時は帝塚山のリビングだけで30畳もある高級マンションのペントハウス


どうでも、よかった。
居場所が、男が、変わっても。
あたしと彼女はいつも一緒だった。
男たちは私が入り込んでも何も言わなかった。
それにはある理由があった。


彼女が、何をしているのか知らなかった。
もしかしたら何かしていたのかもしれない。
それは私の記憶から欠如している。
あたしの印象は家でだらだらしているか、夜の街で遊んでいるか、
ただそれだけしか、なかった。
彼女からは仕事、家族、その他、生活感のかけら一つ見出す事は出来なかった。


ある、冬の週末、いつものように彼女の男の家でだらだらしていたら
珍しく昼間に「出かけるから付いてきて」と、彼女は言った。
服でも買うのだろう、と思って、そのままついていく。
行った先はデパートのおもちゃ売り場だった。
沢山のおもちゃを彼女は買い、「あんたも持って」と荷物を持たされる。
なにこれ? 荷物運び、しかもおもちゃって何?


言われるまま、荷物を沢山持ってついていった。
行き先は聞いても話してくれなかった。


着いた場所は、私が行った事のない場所だった。
教科書で読んだ事があったかも知れないな、と思った。
そういうところがある事を。



そこは施設と呼ばれる場所、だった。
そこへ沢山のおもちゃを持っていった。
クリスマス、だった。
小さな子供たちが、たくさん、いた。
とても、喜んで、いた。


訳がわからないまま、その施設でクリスマスパーティに参加した。


子供たちにたくさん感謝された。
「ありがとう、おねぃちゃん」と。
ちょっと待って、あたし何にもしていない。
ただ、ついてきただけだ。
しかもそれまでは沢山の荷物を持たされ半ば憮然としていたのに。
自分の気持ちの落とし処がわからないまま、子供達の感謝の言葉に、なんだかとても居心地が悪かった。
かといって、かわいそうな子たちだ、という気持ちは起きなかった。
同情などというものは自分を上に見たがる卑怯な人間がする事だとあたしは深いところで知っていた。
若さの傲慢とは違う、本当の傲慢が同情だと。




帰り道、彼女が初めて、自分の事を、口にした。




「あたし、ここに、いたのよ」





あたしは何故、彼女に家がないのかその時初めて、知った。