思い出してくれること


数年前に結婚退職で会社を辞めた人とばったりと街中で会った。
おーい、おーい。と彼女の方から声を掛けてくれた。
あら久しぶりだねぇ元気にしているのかい?と話し始める。


相変わらずあなたは歩いている時にまったく周りを見ていないね、と言われる。
一緒に働いている頃からいつも言われていた事である。
歩いている時に内側に入り込んでしまう癖があるので、本当に気づかない。
だから街中で誰かとばったり、という時は必ず向こうから声をかけられるのだ。


数ヶ月前に子供を生んだ彼女の子育て話からスタートし、次に現在会社を休職中の同僚の話になる。
つわりが酷くて休職中のその彼女はどうなっているのだい?と聞かれるが、答えようがないのである。
なぜなら休みだしてからほぼ半年たつが全然連絡していないからだ。
あんなに仲良かったのに?と言われるも、そういえばあなたはそういう人だよね、と。


いつもあなたは自分から連絡しないもんねぇ、あなたから連絡が来たことがないもの、ははは、と笑われる。
そうだなぁ、その通りなんだよね。


向こうからなんか用事があったら連絡あるだろうし、あたしも用事があれば連絡するのだけど、よくよく考えてみれば取り立てて連絡する事もなく、基本的に自分から人を誘わなかったり、声をかけないで生きてるよなぁ、昔からだよね、これって。まぁつわりはたいそう個人差があるもののようなのでずっと休職しているという事は日々ゲーゲーしてるのだろうし、そんな時に連絡してもかえってしんどいやろうからねぇ、と思うのだよ。


あんたにも会社辞めてから全然連絡した事ないけど、ほら、今年の正月に生まれた赤ちゃんの写真を送ってくれたじゃない?嬉しかったよ〜思い出してくれて。思い出してふと連絡をくれる人がいるというだけでいいよねぇステキな事だよねぇ。で、元気かなぁ、元気なんだろうなぁ、子育て楽しめよぉ、なんて今年に入ってからあんたの事をよく思い出していたんだよね、だからといってそれをメールしたりしないのがいつものあたしやん、ほらそしたらこうやって勝手に会っちゃうわけだしね。


彼女は言う。
あんたは昔からそんなんだよねぇ、むっちゃ面白いよ。
誰かが、ふと、日々の生活の中で、思い出してくれること、それはありがたいことだねぇ。
んで、さらにあんたの面白いところは自分で動かないのにこうやって会っちゃうとか、ほんっと昔っからそんな不思議ちゃんで今でも変ってないねぇ…


不思議な事にいつも先日書いたようなシンクロが起こることが多いのであんまり自分から何か動かなくても全然友達関係はゆるやかに流れてる。
あぁ、あの子とカラオケ行きたいなぁ、と思ったらその子から電話がかかってくるし、あの人元気かなぁと、思い出したら、向こうから連絡が来てしまったり偶然会ってしまうのだ。
もちろん思い出しても会わない人もいるので、そういう人はご縁薄くなりつつあるんだなぁ、と気にしなくなってしまう。


退職した後すぐ妊娠したのだが一度目の子供は流産したいそう落ち込んだが、その後急に母親が死んだりして、本当に人生的にバタバタして大変だったし精神的にえらい事になりつつあったのが、すぐ次の子が出来て、子供はちゃんとタイミングを選んで生まれてきてくれるかのような気分になったよ、完璧な授かりモノだというのが、本当に身にしみたよ、と笑った母になったその子の表情は2年前より目に力が漲り力強く、頼もしい。守るものと共に生きる事、母になるという事は生きる力を漲らせるものだ。落ち込んでなんかいられない、それを運んできてくれたんだ、と彼女は嬉しそうに笑った。